2012年5月15日火曜日

君のいない旅 − 21 :: 二人分の吐息


■ 君のいない旅 ■
〜 神様 〜

あれから、私の中絶を知った母親は、忙しくなった。
信じられないことに…私の妊娠、そして中絶を周りの人たちに
喋っていた。普通ならそんなこと、どんな知り合いでも、例え親戚でも
ベラベラ喋ることじゃないと思う。それは世間知らずなバカな私にでも
分かること。なのに母親は「この人は大丈夫」って勝手に思いこんで
色んな人に、私のことを言いふらした。

中学の時にお世話になった、保健室の先生。
そして…母親の友達…。

その友達というが、エホバの証人、という人達のこと。
聖書を研究するキリスト教グループ。

実は母親は、うつ病になってから色んな宗教に興味をもつようになった
らしい。うつ病になったのは、私を産んでからだから、たぶん
そのくらい� ��時期から。それまで健康だった体もココロも、病気の
せいでどんどん思うようにいかなくなる。色んなストレスが重く重く
彼女のココロと体に増え続けて、そしておかしくなっていく。

助けを求めて、色んな宗教に入ってみたり、グループに興味を持つ。
父親は、それを止めるのに大変だったらしい。多額の金額を正体の
分からない組織に払ってたり、訳のわからない薬を送られてきたり。


社会不安障害クリスチャン

母親は助けが欲しくて、宗教に入って、父に怒られて、脱退する。
また新しい組織をみつけては、それに入って、また父に怒られる。
そんなことを何度か繰り返していくウチに"エホバの証人"という
キリスト教に出会ったらしい。

エホバの証人は、他の宗教のようにお金を請求することも無ければ
変な薬を無理矢理かわせることもない。ただ単純に聖書を勉強して
神様のために、キリストのために、正しい生きていきましょうと
行動するだけ。初めは警戒していた父も、とうとう折れて、母親が
"エホバの証人"と関わることを認めたらしい。

それから母親は集会にいったり、家に姉妹や兄弟("エホバの証人"の
人たちをそう呼ぶ。� �道者の資格を得る者に対して用いられる呼称。)
をまねきいれて研究(聖書の勉強)をしたりと熱心に取り組んだ。

私も幼いころから訳も分からずに聖書の勉強をさせられた。
なぜかお祝い事は禁止だった。クリスマス、誕生日、七夕、お雛様。
世間一般に、カレンダーにのっているイベント事は一切禁止。
神様である"エホバ"しか讃えてはならないと、何度も教えられた。


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子供心に悲しく、寂しかった。誕生日も祝ってもらえず、正月に
お年玉ももらうことも出来ない。幼稚園で七夕の行事があっても
私はいつも蚊帳の外。離れたところから見てるしか出来なかった。
世間が賑わうクリスマスも、我が家でもクリスマスツリーが
飾られることはなく、サンタさんがプレゼントを持ってきてくれる
訳でもない。なにもかもがダメ。世の中の全てを否定する。
それでも"エホバ"だけは讃えなさいと。"エホバ"に使いなさいと。
"エホバ"についていけば、永遠の命が約束されるから…と。

それが今でも続いている。
私はもぅとっくに、強制させられるのが嫌で、集会にも研究も
していないし、"エホバの証人"の 人達と関わることも辞めた。
信じてもない神様を、どうして讃えなければならないのか。

「信者は多かれ少なかれほぼ全世界で活動しており、聖書を
 学ぶよう促し永遠の命へ導くことが人々に愛を表す最高の
 方法としており宣教に熱心である。by.Wikipedia」

元々は母親に強制的にされてただけのこと。私は"エホバの証人"に
なるつもりなんて無い。私には私の生き方がある。誰を信じるか
誰を讃えるか。そんなことはもぅ自分で決めていく。

でも母親にとっては、それが全てで、現在も"エホバの証人"として
生きている。

その、母親と仲のいい"エホバの証人"の人たちに、私の中絶のことを
言いふらしていた。


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「ちょっと出かけるから。付いてきて」

と言われて黙ってついていけば、そこは"エホバの証人"である兄弟の
自宅。嫌な予感をして部屋に上がってみれば。

「心さんのこと、エホバに守ってもらえるようにお祈りしましょうね」

2人の兄弟、母親と、母親と仲のいい姉妹に囲まれて"お祈り"が
はじまった。冗談じゃないっ…。

「それから、どうしたん?」
「……逃げたけど。でも最悪。あそこまでヒドいと思わんかった」

数日後、ヨシ君に会って母親のことを話した。私の中絶を色んな人達に
喋りまくってること。それがとても嫌で仕方がないこと。だって…
誰にも知られたくなかったのに…。

「心のお母さんっ� �ちょっとおかしいでな?普通そんなことせんで」
「うん…」
「やっぱり、そういう環境が心を苦しめた原因でもあるよな」

幼い頃は、"エホバ"を信じてた。"聖書"を信じてた。だから学校に
行っても校歌を歌うことは絶対にしなかったし、血抜きの処理を
されていない肉は食べなかった。それも聖書の教えだったから。
聖書に「いけない」と書かれてあることは全て守った。だって…
私が頑張ると、普段うつ病で寝たきりの母もすごく喜んでくれるから。
私が"聖書"を守り、"エホバ"を慕うと、母親は褒めてくれたから。


でも…。それも重荷だった。親に好かれたい、褒められたいっていう
単純な子供心。16や17になってくると、それも冷めてくる。
自分というものが生まれてくる。

じゃあ…私が聖書をやめたら、母親は私を愛してくれないの…?

「お父さんもどんな人か知らんけど。母親は異常やで」

神様が本当に存在するとしても、悪魔が本当にいるとしても。
私は、私が信じられる人たちを、信じるだけ。

そんな簡単な答えに、やっと気がついた。

なんだかもぅ…自分自身にも、周りにも色んなことが起きって本当に
疲れる。休める時間が無い。安心できる場所がない。

「よしよし…心。よく頑張ったな」

ここ(ヨシ君)以外には。

優しく頭を撫で� ��くれる。嬉しい言葉を言ってくれる。抱きしめて
くれる。こんなに弱いを私を、けして一人にはしない。

私にとっての全て、ヨシ君だけだよ…。



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